技術書典9 オンラインマーケット利用サーベイ

技術書典 主宰 @mhidaka です。
技術書典10(2020/12/26〜2021/01/06)の開催にあわせて、技術書典9のオンラインマーケット販売に関する調査を公開します。

技術書典とは

技術書典とは技術書のイベントで、広く技術のことについて知れるお祭りです。
技術書典は、いろんな技術の普及を手伝いたいとの想いではじまりました。

2020年の技術書典は新型コロナウイルス感染症の状況を鑑み、いずれもオンライン開催となりました。以前は池袋サンシャインシティを借りてのリアル開催でしたが、2021年以降はオンラインとリアルの長所をミックスした同時開催を予定しています。

技術書典9開催情報(振り返り)

第9回の技術書典はインターネット上のオンラインマーケットという形で開催しました。新型コロナウイルス感染症の影響もあり外出が難しい時期であることから、どなたでも来場でき安心して利用いただけることを目指しました。

会期を通じた購入者数は9,100人、頒布総数は43,000部です。

第9回 技術書典
期間:2020年9月12日(土)~2020年9月22日(日)
場所:技術書典オンラインマーケット
サークル参加:約340サークル
購入者:9,100人

購入者数は有料・無料を問わず、書籍を手にした技術書典アカウント9,100人です。カウントはオンラインマーケットの販売情報から統計情報を取得しました。期せずしてインターネットでの開催となったことで分析対象が100%です。以前は、かんたん後払いというシステムで流通量の20%をカバーし、出展者アンケート結果と整合性チェックすることで統計値を算出していました。今回のマーケットサーベイは完璧な数字を得ていますが、外れ値の除去等を行っていますので細かい数字はばらつきがでるケースがあります。

会場環境

2020年3月の応援祭に続き、2回目のオンライン開催です。販売促進のための取り組み、Amazon Pay対応など機能面でもブラッシュアップや挑戦の多いイベントとなりました。

  • オンラインマーケットでの開催
  • 電子書籍をダウンロードできる本棚機能
  • 書籍内容の全文検索の提供
  • 購買統計を活用した推薦機能の提供
  • 通販の取り扱い刷新
  • 書籍紹介を行うライブ配信

技術書典9では電子書籍に加えて紙の書籍も取り扱っています。出展者の保有する紙の書籍を事務局に送付してもらい、会期終了後にまとめて送付する通販を実施しました。

オンラインマーケットで提供している全文検索は書籍を解析し、ページ全文を検索できる専用のシステムです。推薦機能は購買情報から合わせ買いをお勧めする類書発見のためのシステムで、こちらも専用に開発しました。また技術書典9にあたって次の日程でライブ配信を生放送しました。

これらのキャンペーンは販売促進を目的に書籍の紹介、オンラインマーケットの使い方解説などPRしています。技術書の紹介が好評でチャンネル登録者数は1000名弱を獲得しました。

出展費用について

技術書典9の参加費は無料ですが、イベント期間中の販売手数料を20%としました。ただし売上金額が20万円を超えるまでは、販売手数料は0%で提供しています(技術書典10では0%適用の条件が異なります)。

今年は新型コロナウイルスの影響もあり、イベント数が激減していることからも出展者支援を目的に手数料の無料枠を設けました。20万円という数字は前回の応援祭の統計情報をもとに十分大きな値となるよう調整、決定しました(参考情報として技術書典 応援祭の出展サークルの書籍の頒布は平均値:85冊、中央値:36冊です)。

平均的な出展者は技術書典オンラインマーケットでのイベント3回分程度、無料で楽しんでもらえる設計です。詳しい方は気づくかもしれませんので書き添えるとクレジットカードなどの決済にかかる費用は販売金額の8~12%程度です(書籍が500円の場合、決済手数料として3.6%+40円、金額に対して11.6%を決済プロバイダへ支払います)。この費用およびホスティング費用など運営にかかる人件費等は事務局が負担しています。

筆者注:黒字化したらいいなとは思いますが、まずはオンラインのように形を変えても技術書をファンに届け続ける継続性を念頭にこうなりました。新しいことを始めるとき、だれもが大変なはずですので出展を支援したいと考えての決定でした。運営儲かってくれ~ってなったひとへは、いつかお願いするかもしれません。今はオンラインマーケットを使ってください!購入を通じて出展者へ還元できることがコミュニティや技術を育てることへの、なによりの贈り物だと思います。またリアルやオンラインイベントで一緒に盛り上がろうね!

振り返りレポート

ウェブ上には参加者による来場レポートなどがあります。さがしてみてください。以下はこれまでの技術書典のアンケート結果です。たくさんになってきました。あわせてどうぞ。

本の対象範囲

技術書とは、「ITや機械工作とその周辺領域について書いた本」を指します。ソフトウェア、ハードウェア、開発環境、コンピュータサイエンスからその他科学・工学全般などのジャンルを対象としています。たとえばプログラミング解説書のように現存する技術要素の解説を行うもの、架空の工学、未知の科学技術なども対象です。また作ってみた、やってみた、など体験談や考察、上記のジャンルに付帯した開発効率を高める方法のようなライフスタイル、実体験も歓迎します。自分の積み重ねてきたマニアックな技術や成果、ノウハウを詳細に書き記し世に広めたいとは思いませんか?

技術書典はハード、ソフト、機械、科学、組織、エンジニアリングに関わるライフスタイルや考察、その他これらの応用分野、教育など技術ジャンルを問わず「技術」をテーマにしたお祭りです。たとえばTechBoosterは主にソフトウェア、あとハードウェアをチョットデキル感じです。

サーベイを通じて

マーケットサーベイは頒布部数を競う目的で公開しているものではありません。技術的な創作活動と向き合うための参考資料として提供しています。

技術書典への参加目的は出展者、一般参加者、いずれも動機は自由であるべきだと考えています(そのために、お互いを尊重する行動規範やアンチハラスメントポリシーがあります)。広く技術を届けたいという想いからたくさんの本を用意する人や、初めてでどのような場である基準がわからない人の不安を解消したいと考え、調査結果・分析の数値は客観的事実に基づくように細心の注意を払って確認し公開しています。

我々は、どなたにも技術書典というお祭りを楽しんでほしいと考えています。活動経験の有無や誰かの価値観を基準に評価することは望んでいません。個々人の充実感、達成感、価値観を基準として分析を活用してください。

これらの分析を新しい挑戦をする参考指標としたり、自らの表現の幅や知識的探究を深めるために利用したり、興味本位でやってみた!推したい!俺より強いやつに会いたい!でも大丈夫です。技術が面白いと感じる方向へ突き進んでいただけると嬉しいです。

また新型コロナウイルス感染症の影響化における数少ないイベント開催の資料としてこの記事が後世に残ることを期待しています。

マーケットサーベイ(まとめ)

マーケットサーベイは、技術をたくさんのひとへ伝えられたかという指標としての頒布数、価値を感じてもらえるか創作活動を支えることができているかという指標としての流通金額を中心に集計しています。もちろん出展や頒布を支えるのは技術や創作が楽しいという気持ちです。そのためマーケットサーベイがすべてを計測できているとは考えていません。創作活動を支え、円滑な運営を行うために数字での表現ができる部分を可視化し、マーケットの状態を把握しようという試みです。

購入トランザクションを統計処理した結果からは期間中の全サークルの頒布は43,000部、購入者一人あたりで4.7冊の流通量とわかりました。内訳は次のとおりです。

  • 頒布部数:43,000部
    • うち紙の書籍:5,500部
    • うち電子書籍:37,500部
    • 出展:約340サークル
  • 購入者数:9,100人
    • 平均購入:4.7冊
    • 紙の書籍:平均1,250円
    • 電子書籍:平均880円

平均単価の計算には無料配布分を含んでいません(有償配布のみが集計対象です)。オンラインマーケットでは全体の87%が電子版の購入です。購入者数は前回のオンライン開催に比べて1.5倍と急激に増加している点が特徴です。

前回との比較

2020年3月の技術書典 応援祭と2020年技術書典9は同じオンライン開催ですので、この2回分を比較しました(第7回までの技術書典はオフライン開催ですので直接比較の対象にはしていません)。

応援祭と技術書典9の比較

オンラインマーケットの会期は応援祭が約30日間、技術書典9が12日間とそれぞれ異なっています。前回から参加者数が150%、頒布数が140%増加している事実が確認できました。過去の実施経験から参加者数に比例して頒布部数も伸びることがわかっていましたがオンラインマーケットでも似た傾向があると確認できました。

書籍の内訳については応援祭では紙面が5%、電子書籍が95%でした。技術書典9では紙面が13%、電子書籍が87%に変化しています。これは送料負担の仕組みを購入者(400円)から出展者負担(1冊100円)へ変更したことや発送を会期後の一括送付として受け取りの手間を省いたことなど改善の取り組みが体験向上につながったと推測しています。

紙の書籍単体でみても流通量は前回比で3倍程度に増加しています。全体の流通量の上昇率に比べても2倍程度の著しい増加です。送料の負担変更および即時送付から会期後の一括送付への変更など受け取りの手間という購入者のペインポイントを排除できたこと、購入直後に電子書籍が読める体験設計が奏功し、受け入れらました。

出展の傾向は紙の書籍があるほうが頒布数が伸びる(紙が欲しい人と電子が欲しい人の両方にリーチできる)ことがわかっています。一方、電子書籍の平均単価も880円と低くないことから知識に対して価値を感じているという技術書らしい側面が読み取れます。

書籍の統計

技術書典9で頒布された書籍は1200品種です。新刊と既刊の内訳は次のとおりです。

  • 新刊:300品種(25%)
  • 既刊:900品種(75%)

出展者は技術書典 応援祭を経験していたこともあり、新刊の比率が低減し、全体的に品種が増えています。オンラインマーケットでは出展者ごとに品種がストックしていくため(電子書籍は在庫等の概念がないため)この傾向は今後も同様と考えています。出展参加は約340サークルですのでほぼ1サークルにつき1冊弱の新刊を用意していました。

全頒布部数43,000部に対するそれぞれの比率も紹介します。

  • 新刊:24,000部(56%)
  • 既刊:19,000部(44%)

新刊の定義は2020年4月以降の発行日としました。例外はあるものの最新情報が好まれる傾向にあります(書籍次第では上記に当てはまらない傾向の書籍もありました)。

これまでのイベントどおり新刊が好まれるというのは間違いなさそうです。技術書典9では規模が1.5倍に拡大している点からもファンの新規流入が多い状態といえます。この様な状況では既刊でも頒布数が伸びる傾向があります。より詳しい分析のためには書籍の発行日での分類ではなく、オンラインマーケット登録日での分類や動向にも注目する必要がありそうです。

出展の統計

出展者が技術書典9の開催中に得た総売上金額は2,750万円です。新刊・既刊の構成比率は次の通りです。

  • 新刊:1,850万円
  • 既刊:900万円

技術書典9に参加した約340出展の頒布数、売上高についても平均値・中央値を算出しました。

  • 頒布部数(出展)
    • 平均値:130冊
    • 中央値:54冊
  • 売上高(出展)
    • 平均値:80,000円
    • 中央値:34,000円

無料での配布のみの出展者、オンラインマーケットで書籍を1冊も販売していない(いわゆる出展申し込みのみの活動実績の伴わなかった)出展者は除外しています。

出展者ごとの統計では頒布傾向は濃淡があることがわかっているため5段階ヒストグラムで出展ごとに調査しました。横軸に頒布数を取り(1,51]、(51,101]、(101,151]、(151-200]、(200,<]の5つのグループで分類し、縦軸に出展数を積み上げています。

出展の傾向(5段階ヒストグラム)

こちらのヒストグラムでは頒布実績がない0冊のケースとサンプル数が少ないプロット1000冊を超える大規模なケースを割愛しています。統計の作成に際して利用した頒布者数は、オンラインマーケットの実数を集計しているので実需と一致しています。

出展の傾向把握とあわせて過去実績(前回の応援祭)とサークルごとの頒布数、売上高を比較したところ、概ね30%~40%向上を確認できました。

出展者ごとの比較

向上の背景には技術書典9の購入者数が9,100人と1.5倍の規模であったこと、紙の書籍の平均単価が1,250円と上昇傾向かつ通販ボリュームが3倍に伸びたことが要因だと考えています。紙の書籍を取り扱っている出展者ほど売上高が伸びた傾向も影響があったと推測しています。

技術書典9の開催時期(2020年9月)にはオンラインイベントの認知が進んでいた点、新規ファンが流入した点、そして紙の書籍や電子書籍など好きな媒体で技術書を読みたいというニーズへのマッチ、技術を楽しみたい・応援したいという盛り上がりが後押ししたのかも知れません。

売上高の内訳

出展する立場ではファンへ技術を届けるのに新刊・既刊がどの程度の寄与するのか気になるところだと思います。売上の内訳も追加調査しました。

  • 有償で頒布された新刊

    • 220品種
    • 平均値:85,000円
    • 中央値:39,000円
  • 有償で頒布された既刊

    • 680品種
    • 平均値:12,000円
    • 中央値:6,500円

新刊の平均値・中央値とも出展平均・出展中央値を超えています。内訳を見ると出展単位と異なる傾向ですが、これは新刊を頒布した出展者と既刊のみの出展者での差が大きいことを示しています。特に既刊はオンラインマーケットとなったことが影響し、イベント回数を重ねるごとに品種が増加しています。このような背景から中央値は下降傾向です。

今後、開催を重ねると発掘が徐々に難しくなる可能性があったため、より詳しい調査をしてみたところ複数の要因が影響していそうです。大抵の出展者は、新刊を用意した際にPRを頑張るが、既刊のみのときは気後れしてPRが少なくなる傾向があります。オンライン開催の場合、ソーシャルメディアでのPRがファンの流入に直結しやすく(実際にTwitterなどでの発信数に比例する傾向にあります)、その結果、既刊だからと発信が少なくなると頒布傾向にデバフ(マイナス効果)がかかると推測しています。PRがうまく流入量が多い出展では既刊だけであっても上記とは異なる傾向(新刊に近い頒布となる)がでているため引き続き検証していくと共に個人のテクニックに依存しないマーケット設計(アイデアの実装)をしていく必要性を感じています。

技術書典9では技術書典アワードのようなピックアップや特集が一定の成果を出しつつあるので、これらが解決策になるか今後も継続して改善していきたいポイントです。

出展者へのサポート

技術書典では初めての人向けのサポートを充実していきたいと考えており、初心者向けの技術書の制作、執筆勉強会を定期的に開催しています。

メンバーになると、勉強会の開催時に通知が届きます。技術書典ならではの工夫、編集や出版のサポートを目的とした場所です。技術書執筆に際しての相談や添削が受けられます。

主宰雑感

ここからさきは主宰雑感コーナーです(急ぐ場合は、まとめまで読み飛ばしても問題ありません)。

技術書典ではマーケットサーベイ作成にあたり、さまざまな仮説と検証をしています。ここは機械学習エンジニアとデータ解析のプロが担当してくれているパートです。因果を証明するに至らなかった仮説が山程あるのですが、そのなかでも面白かったものを紹介して供養とします。本来、棄却された仮説というものは仮説の因果が証明できなかっただけなので鵜呑みは厳禁です。雑感を通じて見えないところも色々調べてるんだな、と感じて貰えればうれしいです。

仮説1.参加回数が多いほど頒布に有利である: 棄却

もともとの直感として参加回数が多い出展者ほど知名度がでてきて固定ファンを獲得しているだろう=頒布数に固定のボリュームが見込めるので結果的に有利に働いてるのではという検証アイデアがありました。そこで技術書典への参加回数と頒布数に因果があるかを検証してみました。なお固定ファンの定義は「これまでに同一出展者から2冊以上購入しているファン」としています。

調査の結果、因果は証明できませんでした。参加回数は要因としては小さく、別の要因で頒布数が導かれている可能性が高いと判断するに至っています。出展者の規模や継続参加というアクションは固定ファン獲得にそこまで影響してなさそう(固定ファンそのものはキチンと存在しているのですが回数には非依存で内容やシリーズに依存があるのかもねということ)です。

ここからわかることは長期的に人気がある出展者は必ずしも固定ファンに支えられているわけではなく頒布の戦略として新規購入者も取り込めるPRや技術書づくりを行うことが大事そうです。

これはシリーズ物を除くと技術書の内容とかジャンルとか全く別の要素が頒布の支配的な要素であろう、多分…わからんけど…。みたいな考えです。仮説では結果をみて怪しいなと感じるときがあります。今回も追加の制約として同じくらいの頒布部数の出展同士で、ユニークなファン数(初めて購入してくれたファン)を比較して差がでるかを検証(参加回数が多いサークルほどユニークなファンが少なく固定ファンに支えられる形になるのでは?を検証)したのですが、やはりこれも棄却されてしまいました。

ちなみに技術書典特有の面白い傾向として開催ごとの新規出展者は25%程度もいます。新しい人々がコミュニティに参加してくれている傾向があるわけですが、このような状況ではベテランと新人という関係が成立せず、ある種未成熟かつ成長途中のイベントゆえの健全性があるのかもしれません。

これらの検証は良し悪しを判断するというより、特徴があるという事実に基づいて技術の普及やファンとのリレーション構築に効果的なアプローチを探す主旨で頑張って調べています。それでは次の仮説にいきましょう。

仮説2.頒布する品種が多いほど、まとめ買いしてもらえる: 棄却

オンラインマーケットでのファンの平均購入は5冊弱ですので、複数の書籍をゲットしている内訳は出展単位(=技術や著者のファンである)かもね、という観点で調査しました。現在のところ結果は棄却されています。もちろん頒布している品種が多いほど購入されている傾向はありましたが、おもったより全然、強くありませんでした。ファンのみなさんは好きな本を好きなように買っています(人間のもつ嗜好にあわせた自動分類や推薦がいかに難しいかがわかりますね)。

なお技術書典では「買い物かご」という概念がありません。そのかわりすぐに買えるボタンのみがあります。なぜかというと書籍の購買というのは他のプロダクトと異なり、ほとんど1点買いである傾向があるためです。もちろん濃淡がありますが利用シーンはオンラインマーケットを開いてじっくり眺めて吟味するより、飛び込んで気になる本をすっと買って離脱する、また来て同じ行動を取るファンが多いという状況です。このような状況では買い物かごを用意しても、いわゆる「カゴ落ち」による購入からの離脱リスクが相当に高く、積極的に採用する合理的試算を導くに至っていません。

たとえば技術書典9でうまれた「会期後のまとめて発送」はカゴ落ちの課題を解決しつつ、技術をファンにリーチするアイデアとして生まれたものです。今回の検証も、まとめて買うボタンあると嬉しいのでは?と思って調べてみたのですが、現時点では実装コストをペイするだけの効果は得られなさそうという結果で終わりました。くじけずに次の仮説にいきましょう。

仮説3.おすすめ機能は特定の出展者へ有利に働く: 棄却

今回の仮説は前述のような背景で「おすすめ」機能がどのような利用傾向にあるかを調査したものです。運営の提供するおすすめ機能は気になる技術書をゲットしにきたファンに対して、類似の書籍を提示することで買い周り(興味のある技術書をファンに届けられるよね!)という発想で提供しています。コンバージョンもよくそこそこ使われていて嬉しいのですが機能の性質上、特定ジャンルに特化した出展者がたくさんの品種を頒布していれば自然とおすすめされやすくなり、強く推薦される結果になっているのでは?と疑問がでてきたので仮説をたててみました。

ファンのオンラインマーケット購買動向から結果を確認したところ仮説は棄却されました。かなり公平に購入されていることがわかりました(もちろん特定の技術分野に1出展者しかいない、、、みたいなニッチが強いケースがあるので、あくまで統計的にみたときに違和感がある特異点が検出されなかったというだけです)。

技術書典では面白い傾向に、ニッチが受け入れられる(なぜか爆発的ともいえる頒布を記録することが多い)というのがあります。たぶん業務で使わなくても技術的な面白さをファンが楽しんでくれている、読者層の審美眼が面白さ重視…みたいなのがあるとおもいます。主催自身も技術的探求が垣間見える本は大好物です。知らないジャンルであっても目がとまってしまいます。実益とは別ですね。このような広く技術的探求を受け入れる傾向もとても好ましく感じています。

今回は3つの棄却された仮説を取り上げて解説しました。日々、技術の普及とリレーションシップ構築を目的に調査しています。また機会があれば紹介します。

まとめ

第9回 技術書典はオンライン開催となりました。2020年3月開催の応援祭では技術書典7や8の規模に対しておおよそ半分の開催規模と実績でしたが、技術書典9での出展傾向を見ると(出展者視点では)技術書典7と同等の頒布・売上高となりました。実績が応援祭に比べて140~150%の結果だったことは主催としては想定以上の伸びです。紙の書籍も流通量にして3倍に向上して受け入れられています。ささやかながら印刷所支援や出展支援ができたのであれば嬉しい限りです。

新型コロナウイルス感染症の状況を鑑みるとオフライン開催の難しさは続きそうですが、2021年はオフライン開催も含めて計画を練っています。技術書典の将来像ではオンラインマーケットの長所とオフライン開催の長所どちらも取り込んだ新しい運営形態を目指すことになります。

今回のマーケットサーベイからは明るい話題・おもしろい発見もありました。遠隔地からの参加が増えていること(地理的制約からの開放)、オンラインマーケットで技術書を買った購入者の8割程度が初参加です。他方で、出展者数はオフライン開催に及びません。現地での化学反応的な面白さ、体験は代えがたいものがあります。オンラインマーケットを活用した購入ハードルの低さと合わせて、どちらの魅力も取り込みたいと考えています。

我々はテクノロジーを活用することで今まで以上に幅広いファンへ技術を届けたいと考えています。環境の変化もあり現時点では足りない機能・パーツも多いのは偽らざる現実ですが、いつもの技術書典らしく新しいチャレンジのなかで解決できればと考えています。

技術の普及とリレーションシップの構築を目指して、お祭りとしてイベントを開催していきます。出展者がもつ技術への探究心・知識欲、それらを支える情熱を詰め込んだ技術書を大切にし、技術の普及を手助けしていきます。ファンと技術を繋いでお祭りが大きくなっていければ素晴らしいことです。

2020年を振り返ると最適な解は主催にもわからないシーンが多いというのが正直な気持ちです。急にオンラインマーケットができたり、突然に発送システムが変わったり、予期しない変化がこの先も待ち受けてるかもしれません。ファンのみなさんへも多くの寛容と変化への追従をお願いすることがあると感じています。回を重ね、改善を繰り返して課題を乗り越え、技術書典が受け入れられる分野・内容が広くなり、新しい技術を伝道し、技術を支えるコミュニティに発展していくことを願っています。

イベントごとに発表する新規施策は、リスクがあるチャレンジにみえるときもあるでしょう。前述ような仮説検証を通じた妥当性の検証やマーケットサーベイから導出した取り組みなど、運営の様子を知ってもらうとオンラインの距離感をより近く感じてもらえ、理解度も変わるのではと考えています。

最近ではYouTubeなどオンラインでも対話できるチャンネルを開設しました。またDiscordのような即座に反応できるチャットサポートも用意しています。オンラインだからと距離感が遠くなるのは望んでいません。もっとこうだったら良いなという気持ちはぜひ運営に直接伝えてください。

技術書典は、皆さんの技術への思いと相互の協力に支えられています。多くの取り組みと失敗を通じて、技術との出会いの場を維持していきます。技術のお祭りを一緒に作っていきましょう。出展者もますます多様になり、いろんなニッチを受け入れていきたいと思っています。誰でも技術を楽しんでいただけるようアンチハラスメントポリシーなどの整備を進めていきます。

きっと技術書典10も、2021年の技術書典も、まだまだ変化が続きます。毎回、新しい技術書典が生まれてくる姿だと感じて一緒に苦労して失敗や頒布の体験を楽しんでもらえると助かります。変化を許容し、これまで以上に面白い場となることを願っています。

技術書典10は12月26日から!

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